完璧な火入れで焼き上げた肉は、究極の肉料理の完成形!

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■なぜステーキを焼くのは難しい?
ステーキほどシンプルで奥が深い料理がほかにあるでしょうか。一口にステーキと言っても、牛の種類、部位、状態などによって適した焼き方が変わってきます。完璧な火入れによって焼き上げた肉は、究極の肉料理の完成形の1つと言ってもよいでしょう。

肉を焼くという行為はそれほどまでに奥が深く難しいのです。ステーキレボリューションに登場する10店舗でも、焼き方や焼き方についての考え方は様々です。ステーキを焼く時の最高の方法はいまだに確立されていないのでしょうか。なぜ店舗によって焼き方が異なるのか、今回はそんなステーキの「焼き」について考えていきましょう。

■お肉を焼いた時に起こる変化
肉の構造を簡単におさらいすると、肉は筋繊維がコラーゲンの膜で束ねられた構造で、3種類のタンパク質で出来ています。この3種類のタンパク質は熱でそれぞれ変性する温度が異なります。筋繊維タンパク質は50℃を超えると凝固と収縮し、筋形質タンパク質は60℃付近から凝固をし、コラーゲンは65℃付近から収縮し、75℃を超えるとゼラチン化します。

そのため65℃を超えると肉汁が出やすくなります。これがお肉を加熱した時の基本的な状態変化です。映画の中では50℃以上にならないように温度を計りながら、低温でじっくり焼いているお店も登場します。以前は肉の表面を「焼き固める」ことで中に肉汁を閉じ込めると言われていましたが、今は科学的に誤りだとされています。

■地域によって異なる部位の分け方

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最近では日本の規格にあわせた部位分けをして輸出する国もありますが、そもそも畜肉の部位の分け方は世界各国で異なります。それは国や地域によって調理の仕方や食べ方が異なるからです。

先日のステーキキャンプで日仏ステーキ対決をやっていた際も、フランスから来日されたブルドネックさんと、日本代表の藤枝さんでは、お肉をさばくのに使っている道具が異なっていました。お肉の種類以前に、部位分けや、切り分け方が異なるというのも、焼き方が異なってくる理由の一つです。

お肉の品種は当然、焼き方に違いがでる大きな要素ですが、それと同じくらいどのような育てられ方をした牛かが重要です。例えば和牛の日本短角種の場合、同じ岩手県内でも一番出荷量の一番多い岩泉の他に、山形村や二戸という地域があり、それぞれエサが違います。

そのため同じ日本短角種でも、産地が違った場合は味や食感、サシの入り方、キメの細かさが異なるため、焼き方も変わってきます。このように同じ和牛の同品種で、同じ県内で育てられたものでも、育て方によって肉の品質が異なります。

それに加えて、屠畜されるまでの月齢や、性別、経産の有無などが肉質に影響してきます。一般的に肉質が良いと言われている順番では、未経産牛>去勢牛>雄牛>経産牛>廃乳牛、となります。メスはオスに比べて肉質がきめ細かく、脂肪の融点が低いため、口どけが良いとされています。

しかし、最近では赤身人気の影響で経産牛の評価が急上昇しています。ちなみにフランスの食通が最も好むのが4~5回お産をした経産牛で、これを1ヶ月ほど熟成させて食べるのを好むそうです。こういった多くの要素が絡み合って成り立っている肉の状態を見極めて、最適な焼き方をする必要があるため、店舗によって異なるのです。

■世界で流通している牛肉の品種

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それでは次に、世界で流通している牛肉の主な品種や特徴を見ていきましょう。欧米では数多くの優れた品種が作られていますが、 現在おいしい品種として広く飼育されているのは、ブリティッシュ・ブリードと言われるイギリス系と、フランス系です。

アバディーン・アンガス
アメリカの代表的な品種です。北スコットランド原産で無角種を交配させて改良されています。サシが入りやすく、赤身とのバランスが良いが、皮下脂肪が厚いです。アメリカの肉用牛の40%を占めています。「3代ブリティッシュブリードの1つです」。

ヘレフォード
イギリス原産です。環境への適応力に優れ、暑さ・寒さ・乾燥に強く頑健で育てやすいので数多く飼育されています。
赤身が多くサシが入りづらい赤身で、筋繊維が粗いです。「3代ブリティッシュブリードの1つです」。

ショートホーン 
英国イングランド東北部で17世紀まで飼われていた牛と、オランダから導入された牛の交配で誕生したものです。早熟・早肥で肉質も良いのですが、ヘレフォードなどに比べるとやや弱く、良質の粗飼料を与えて育てる必要があります。「3代ブリティッシュブリードの1つです」。

シャロレー
フランス原産。フランスの誇る最高級の牛です。牧草などの粗飼料でよく育ち、脂肪が少ない赤身で、評価がとても高いです。日本では北海道や岡山県で少数飼育されています。

リムザーン
シャロレーとともにフランスを代表する赤身肉です。筋繊維が細かくて柔らかいです。英国、北米、オーストラリアでも肉用種や交配種として利用されています。

キアーナ
イタリアを代表する脂肪が少ない赤身です。筋繊維が粗くて硬めです。フィレンツェ風Tボーンステーキはこの牛の肉でつくられます。

これらが世界で流通している牛肉の主な品種になります。日本ではサシが霜降り状に入った牛肉、サシが入りやすい和牛の「黒毛和種」が高い評価を受けていました。日本で飼育されている牛の6割以上が黒毛です。サシが入りやすい黒毛は市場で他の品種よりも高値がつきやすいため、生産者は黒毛を優先的に選んできました。

■焼き方の違いに注目しよう

映画本編では、胚移植で完璧な和牛をスウェーデンに移植して、独自の牧草飼育方法で育てている牧場があり、超高値で取引される素晴らしい牛として登場するので注目してください。

こういった品種の違いや牛の状態の違いを踏まえながら、世界のステーキハウスがどのようにステーキを焼いているのかに注目すると、よりこの映画を深く楽しむことができると思います。

また、通常ではなかなか撮影許可がおりないニューヨークの伝説的なステーキハウス、ピーター・ルーガーのキッチンの様子が見られるなど、貴重な映像が多く含まれていますので、そういった部分もおススメです。是非劇場でご覧ください。それでは今夜もステーキな夜を!