自分好みの理想の牛を育てるとしたら?

iStock_000004115183_Small 2

自分で牛を育てること
前回のコラムでもお伝えしたようにお肉の味は、品種やどのような育てられ方をした牛かによって大きく変わります。もしあなたが自分の理想の味の牛をつくるとしたら、どんな育て方をしますか?

そんなお肉好きの妄想を、本当に実現してしまった人がいます。それはステーキ・レボリューションの本編にも登場する『ステーキ!世界一の牛肉を探す旅』の著者、マークシャッカー。彼は美味しいステーキを求めて世界中を旅して、最終的には自分で牛を育てることにチャレンジします。

育てる牛の品種を決める
まずは、育てる牛の品種を決める必要がありますが、これを決めるのはなかなか難しいのです。氏は、アンガスやショートフォーンなどのアメリアの代表的な品種ではなく、カナディエンヌという品種の乳用牛に目をつけます。

一般的に牛肉業界では、乳用牛はあまり相手にされていません。理由は味ではなく歩留まりの悪さ。大きくなるのに時間がかかりすぎる上に、痩せた尻とくびれた腰で、一頭から取れるお肉の量が少ないのです。肥えた肉品種よりも、乳用種が美味しいなどということはあるのでしょうか?

実はかつて名を馳せたジャージーという乳用種がいて、肉質の柔らかさで有名だったそうです。氏は、実際にジャージーを食べたことがある肉好きから、史上最高に美味しいステーキだったという話を聞きます。それほどならば、同じ乳用牛のカナディエンヌもまずいはずがないと考え、この乳用種を探すことに。希少種ながらも奇跡的にカナディエンヌの不妊牛2頭を手に入れることに成功し、協力者の牧場で育て始めます。

牛に何を食べさせるか

iStock_000054996880_Small

次に決めなければいけないのが、牛に何を食べさせるかです。氏がそれまで食べてきたお肉の中で、最も美味かったのは牧草を食べて育った牛、最もまずかったのも牧草を食べて育った牛だったそうです。

なぜ同じ草肥育でここまで差が出るのでしょうか?考えられる原因としては次のようなことが挙げられます。

解体までの肥育が不十分で仕上がっていなかった、食べた草の種類が適切でなかった、脂肪の少ない身を乾燥熟成させる期間が長すぎたことでカビが浸透して肉に不快な風味を持たせた、味を悪くする作用を持つ真菌に感染したイネ科のウシノケグサという草を牛が食べた、春に食べた草がたんぱく質過多かつ炭水化物不足だったせいで、食肉科学者の言う「異臭」が牛肉に残った、草肥育に不向きな「大陸産」のリムーザンやシャロレーだった、解体時期に牛の体調が悪く、脂肪が増加ではなく減る傾向という味を著しく落とす状態にあった。
引用出典:ステーキ!世界一の牛肉を探す旅より

つまり、草肥育で美味しい牛を育てるには、膨大な専門知識が必要なのです。土の種類や質、雨や日光の量、時期などによってエネルギー量が大きく変化するのが草の難点です。

牛を草で仕上げるなら、熟練の牧草職人が必要なのです。それに引きかえ穀物はこれ以上ないぐらい単純にして明快。何月だろうと同じ栄養価の餌をあたえることができます。ただしとうもろこしなどの穀物で育った牛では草肥育で育ったような味の深みが出ない。彼は悩んだ末に1つの名案を思いつきます。

それは、りんごを牛に食べさせることです。ヨーロッパでは豚にりんごを与えて育てている地域があり、それらの豚は例外なく美味しく育つのです。そして、草の糖分が足りなかった場合はりんごの糖分で補うことができます。

こうして実際にりんごを与えてみると1頭は見向きもしませんでしたが、もう1頭は夢中になって何個でも食べました。同じ品種でも個体差があり、好き嫌いがはっきりしていたのです。その後もりんごやニンジンを与え、プロにアドバイスをもらいながら育てた牧草を食べさせて太らせていきました。

美味しいお肉をつくることに成功

iStock_000008677619_Small

秋にはどんぐり、栗、木の実などを与えました。胸肉と助骨全体に脂肪がつき、いい状態に仕上がりました。12月には氏も立ち会って最後を見届け、食肉処理場で解体しました。

草と果物と木の実で、乳用種を育てるという無謀なチャレンジでしたが、プロの予想に反して、毛皮の下にはクリーミーでギラギラとした背脂の層がしっかりとできていました。思い描いていた完璧なステーキとまではいきませんでしたが、非常にクオリティの高い美味しいお肉をつくることに成功しました。

氏は「はじめて牛を育てて、食べて美味しいお肉を育てることができたことには満足しているが、運良く平均的な自家製ワインレベルのステーキができただけで、本当の畜産技術を持った人の凄さの足元にも及ばない」と。

本当のプロは、飼い葉の成長曲線や、牧草の土に含まれる炭素やミネラルを放出する炭酸の濃度などについて語ることができるような人物であると、その奥深さについて語っています。

ステーキの最前線を目撃しよう
お肉の味はたくさんの要素が複雑に絡み合い、まだその謎は解き明かされていません。ステーキ・レボリューションに登場する牧場主たちはその謎を解き明かそうと、あらゆる試行錯誤を重ねています。

そしてかなり正解に近いところまでたどり着いていると思われる牧場主も登場します。確実に今、ステーキの世界で新たなか革命が起こっています。ステーキの最前線の情報がここに詰まっています。いよいよ10月17日(土)から劇場公開です。是非ご覧ください!